月下美人の鉢植えを置いています。
毎年、花を開いてくれるようになりました。
8月30日の昼。奥さんから電話。
名前を呼んでるとのこと。
急いで支度し、月下美人のつぼみをデジカメで撮る。
今夜、間違いなく花開くと、彼に見せたかったから。
目を大きく見開いて、彼は見てくれた。
言葉はなかった。
握り返す手の力を感じることができなかった。
こんな部屋じゃなく、お気に入りのスピーカーから
音楽が流れる彼の部屋へと連れて帰りたかった。
30日の深夜。目が覚めた。
風が寝室まで香りを運んでくれた。
ふたつ、花開いた。
31日の昼過ぎ、電話があった。
彼は、逝ってしまった。
驚きはなかった。
花開いたふたつ。うな垂れるも凛として閉じていた。
「もうすぐ普通の時代が来る」
呼吸がままならない状態で彼はそう言った。
「普通って、いいよね。争いがなくて、誰もが日々の暮らしの中で、
なんらかの楽しみなり、幸せを見つけられる普通って、いいよね」
彼からの返事は何もなかった。ずっと、ずっとずっとずっと遠くを
見ているような目だったようにも思えたし、はっきりと見えていた
ような目でもあった。
帰り際「また、来るわな」そう言うと、彼は呼吸器を付けたまま静かに
頷いてくれた。
約束がある。そのことを覚えていてくれているだろうか。
30日、そのことを聞きぞびれてしまった。
きっと、覚えていてくれるだろう。
先に逝った方、
もしあれが本当だったら、
空にマルと雲で書いて知らせるって約束だ。
空を眺める時間が、今後、増えることになったな。
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